北海道の大学で学生生活を送っていた頃の経験をもとに書いたのが『ベン・トー』なんです。僕自身は、家賃・電気代を除いて月に4万円で生活していた超貧乏学生だったので、半額弁当でさえごちそうで、定価の弁当なんかブルジョアの食べ物だと思っていましたが(笑)。
―小説で描かれている“狼”と呼ばれるような学生たちがアサウラさんの周囲にも……。
ア いましたよ。近所のスーパーで半額シールの貼られる時間になるといつも会うヤツらがいて、僕は彼らを心の中で“天然アフロ”“黒縁メガネ”なんて呼んで警戒していましたね(笑)。スーパーに入った時の独特の緊張感で、そいつらがいることはわかります。しかし、長時間、同じ位置に陣取って半額セールを待っていると不審に思われますから、弁当コーナーから絶妙な距離をおいてぶらぶらしてるんです。それで、ひとりが動いた瞬間にそのポジションに入り込んだりと、僕たちの間では見えない争いが行なわれていました。サッカー用語でたとえるなら、“ぶつからないゾーンディフェンス”と言いましょうか。
―そんなギリギリの攻防が!
ア 別に悪いことをしているわけじゃないんですけどね(笑)。ただ、北海道人気質もあってか、人を押しのけて利益を得ることを恥じる気持ちもあって。だからこそ、〝店員がすべての弁当にシールを貼り終わるまで動かない〟とか、暗黙のルールがありました。ほぼ同時に弁当に手を伸ばし、先に向こうにタッチされてしまった時なんかは、〝俺はこっちを狙っていたんじゃありませんよ?〟みたいな体(てい)を一瞬で装ってほかのを取ったりも。常にコンマ1秒の心理戦が展開されていました。
